バッティストーニに迫る!① Who is Battistoni ???

バッティストーニと加藤浩子さん、ジェノヴァにて
バッティストーニと加藤浩子さん、ジェノヴァにて

今月のピックアップ・アーティストはイタリアの若き指揮者アンドレア・バッティストーニ!!

 

まだ26歳というその年齢にも驚きますが、彼の指揮するオーケストラを聴くと、その表現のダイナミックさ、美しい響きの広がりに圧倒されてしまうのです!

女子クラ部もバッティの指揮する『ローマ三部作』にすっかりハマって、以来バッティ追っかけ隊の役目を自認しております。

 

そこで今月から来月にわたって、早くよりバッティストーニの才能に注目、3月にジェノヴァで行われたレコーディングにも同行しておられる音楽評論家の加藤浩子さんによるバッティ・レポートをお届けしてゆきたいと思います!!

 

まず連載第1回は、"Who is Battistoni ???"

――― イタリアから世界に羽ばたく大型若手指揮者、アンドレア・バッティストーニって、誰?

バッティストーニが首席客演指揮者を務める、ジェノヴァのカルロ・フェリーチェ劇場
バッティストーニが首席客演指揮者を務める、ジェノヴァのカルロ・フェリーチェ劇場

 「私が見つけてきたんだよ」

 北イタリア、ジェノヴァ。イタリアを代表するオペラハウスのひとつ、カルロ・フェリーチェ歌劇場の総裁をつとめるパコー氏は、ちょっと得意げにそう言った。

 「ヴェローナの音楽祭で《セビリヤの理髪師》を振ったのを聴いたんだ。あのオペラを指揮するのはとても難しい。リズムを生き生きと刻むのは離れ技なんだよ。あのトスカニーニも《セビリヤ》は難しすぎるから、って振らなかったんだ。それを見事にこなしていた。だからこの劇場の総裁になった時、彼に声をかけたんだよ」

 

 パコー氏は、イタリアにとどまらずイギリスやギリシャなど複数の国の歌劇場で要職につき、また指揮者としても活躍するマルチな音楽人。そのひとを、イタリア人音楽家の「父」のような存在である伝説的指揮者、トスカニーニも振らなかった《セビリヤの理髪師》で魅了した若き指揮者、それがアンドレア・バッティストーニだった。

 まだある。

 「もう、ほんと、天才」

 バッティストーニ。その名前を口にした時、20数年イタリアに通い詰めているイタリア・オペラ通のある音楽評論家は、言い切った。

 「マチェラータ音楽祭で《リゴレット》を聴いたんだけど、劇的表現が素晴らしい。そして音楽がすごく美しくて、洗練されているんだ」

 うわごとのような彼の言葉に耳を傾けながら、私は自分の「バッティストーニ初体験」を振り返っていた。

ブッセートのヴェルディ劇場と劇場前のヴェルディ像
ブッセートのヴェルディ劇場と劇場前のヴェルディ像

 2010年秋、イタリアはパルマ近郊のブッセート。イタリア・オペラの大作曲家ヴェルディの故郷の小さな町で、彼の名前を被せた小さな歌劇場がある。毎年秋にパルマとその近隣の町で開催される「ヴェルディ音楽祭」の会場にもなる、美しい劇場だ。

 10月のある夜、そのヴェルディ劇場の天井桟敷に陣取った私の耳に入ってきたのは、年期の入ったうるさ型のオペラファンたちの熱い囁きだった。

 今日振る指揮者は凄いらしい。とても若いんだけれど、音楽がダイナミックで活きがいいんだ。歌わせるのもとてもうまいし、今日の聴きものは指揮者だよ。

 へえ。

 ブッセート名物の、ヴェルディも好物だったという生ハムと、この地方の地酒である発泡性の赤ワイン、ランブスルコでいい気分になっていた私の耳がダンボ状態になったのは、ご想像がつくだろうか。

 果たして、素晴らしい夜だった。

 ヴェルディ初期の名作《アッティラ》。日本では残念ながらなかなか上演の機会に恵まれないが、情熱的な歌と躍動的なリズム、そして斬新な楽器の色合いを特徴とし、イタリアではポピュラーな部類に入る作品だ。ヴェルディ音楽祭に来るような地元のファンなら、全曲口ずさめるくらいなじみのオペラである。そんなコワモテ?のファンが埋め尽くす天井桟敷。そこにこもる空気が、ファン達の期待が、時を追うごとに熱して行った。

 なぜかって、音楽が「生き物」になっていたから。ヴェルディの音符が、生命を吹き込まれて、それぞれの位置でドラマを主張し、歌を歌っていたから。

 あの夜のことを、私は絶対に忘れない。

アレーナ・ディ・ヴェローナの野外音楽祭にて
アレーナ・ディ・ヴェローナの野外音楽祭にて

 アンドレア・バッティストーニは1987年、北イタリアのヴェローナに生まれた。音楽ファンにとっては、ローマ帝国時代の闘技場で開催される夏のオペラフェスティバルで有名な町だ。バッティストーニ自身も、野外音楽祭でオペラに親しんだという。「子供がオペラと出逢うには、とてもいい環境だと思います」(バッティストーニ。以下B)。

 ヴェローナの野外音楽祭は、昨年でちょうど100周年を迎えた由緒ある音楽祭であると同時に、イタリアを代表するレベルを誇る音楽祭。この夏バッティストーニは、弱冠26歳!(7月で27歳)にして、オープニングで上演される《仮面舞踏会》を任される。つまり音楽祭の看板アーティストというわけだ。

二期会『ナブッコ』のインタビューの際に
二期会『ナブッコ』のインタビューの際に

 実際、バッティストーニはあっという間にキャリアの階段を駆け上がった。医師の父とピアニストの母を持ち、音楽的環境には恵まれたそう。音楽院ではじめチェロを専攻したが、「大きな楽器」(B)のようなオーケストラに惹かれ、指揮者に転向した。2008年、わずか21歳で《ラ・ボエーム》を振って指揮者デビュー。以後今日まで、スカラ座、ベルリン・ドイツ・オペラなど各国を代表するオペラハウスで、またイスラエル・フィルなど世界的なオーケストラで指揮を執っている。

 

 日本でビューは2012年1月、二期会公演の《ナブッコ》。初めての練習の時、序曲を聴いて「あんまり凄いんで笑っちゃいました」(!二期会スタッフの言葉)と関係者を賛嘆させた実力は本番でもいかんなく発揮され、各メディアの批評にはバッティストーニの賛辞が渦巻いた。この時共演した東京フィルと意気投合、翌2013年の5月に、東京フィルの定期でレスピーギ《ローマ三部作》を振って日本でのコンサートデビューを果たした。その時の録音がCDになり、この2月に発売されたが、これはバッティストーニのデビューCDでもある。つまり、日本コロムビアもまた彼の才能に魅了され、積極的にプロデュースする側に回ったというわけだ。この5月に発売されるマーラーの《巨人》、そして来年の年明けにもイタリア・オペラの名曲集を予定。ひとりのアーティストの録音がこれほど次々発売されるのは異例だが、それだけの才能を持った指揮者だからだろう。

カルロ・フェリーチェ劇場でのリハーサル風景
カルロ・フェリーチェ劇場でのリハーサル風景

 個人的に感じる彼の「才能」は、作品のなかにすっと入り込み、その本質をつかみとることがとてもうまいことだ。これは教えられてできることではなく、本能的なものだと思う。それこそが(繰り返しだが)「才能」というものだろう。《アッティラ》や《リゴレット》のようなダイナミックで劇的な作品でも、《セビリヤの理髪師》のような軽快な作品でも、あるいは《椿姫》のような繊細なオペラでも、その作品ごとの雰囲気をすばやく把握し、美しく洗練された音色で、絵画的なドラマの世界を築き上げるセンスは、持って生まれたものとしか思えない。

もちろん、イタリア人らしい歌心もこめて。

『Non e musica per vecchi』を手にするバッティ
『Non e musica per vecchi』を手にするバッティ

 指揮台ではとても情熱的だが、舞台を下りるともの静かで大人びた青年へと変貌する。読書好きで、作家になりたいと夢見たこともあったと人づてに聞いた。文学好きの血も助けているのだろうが、2012年には、初の著書『シニアのためだけの音楽じゃない Non e musica per vecchi』を上梓している。いわゆるクラシック音楽の入門書だが、視点がユニークで遊び心に富み、何より音楽への「愛」が感じられる好著だ。

 プライベートではトスカーナ産の葉巻を手放さず、来日するたびに音楽関係者の間に「葉巻」ファンを増やしている。アルコールもめっぽう強い、という噂です。。。

 

文:加藤浩子

加藤浩子さんプロフィール

 

慶應義塾大学大学院修了。同大学講師(音楽学)。音楽評論家。

 

著書:

『バッハへの旅 その生涯と由縁の街を巡る』・『黄金の翼 ジュゼッペ・ヴェルディ』(いずれも東京書籍)、『さわりで覚えるバッハの名曲25選』、『人生の午後に生きがいを奏でる家』(いずれも中経出版)、『ヴェルディ: オペラ変革者の素顔と作品 (平凡社新書)』(平凡社)、『今夜はオペラ』(春秋社)、『バッハ名曲名盤を聴く』・『古楽への招待』(いずれも立風書房、共著)、『ようこそオペラ! ビギナーズ鑑賞ガイド』、『バッハからの贈りもの〈鈴木雅明氏との対談〉』(春秋社)他 訳書:『西洋音楽史年表』(音楽之友社、共訳)、『コーヒーハウス物語』(洋泉社)、『「音楽家」の誕生』(洋泉社、共訳)他。 その他、新聞・雑誌への寄稿、プログラム、CD解説等多数。

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