バッティストーニに迫る!②東京フィルと共演のマーラー『巨人』

著書『 non e musica per vecchi』を手にするバッティストーニ
著書『 non e musica per vecchi』を手にするバッティストーニ

今月のピックアップ、アンドレア・バッティストーニ。加藤浩子さんによる連載第2回目は、明日5月21日に発売される『巨人』のCDについて!

 

―――日本発信のCDデビュー第2弾!

今月発売の東フィルと共演したマーラー「巨人」とその前後

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 「マジシャン」。

 「prestigiatori」って、どいういう意味?尋ねた私に、アンドレア・バッティストーニはそう答えた。黒い大きな目で、こちらを見ながら。

 彼の初の著書であるクラシック音楽の入門書,『シニアのためだけの音楽じゃない non e musica per vecchi』(2012, rizzoli) には、小さな「音楽用語の手引き」がついている。その項目が、なかなかユニーク。「交響曲」「ベルカント」など、その手のクラシック本ではおなじみの言葉と並んで、「フロックコート(燕尾服)」「キャンディ」など、クラシックのコンサートにはつきものながら、およそこの手の「手引き」とは無縁な項目がならんでいるのだ。

 たとえば「フロックコート」はどのように扱われているか?本書によれば「過去に流行った衣装」で、「今日では3つの分野でしか常用されていない」。つまりは「ノーベル賞」「クラシック音楽」、そして「マジシャン(=手品師)」。この3つめの単語が分からず、本人にきいてみた、というわけだったのだけれど、答えをきいてうなずけた次第。(この本、しごく真面目でまっとうな部分と、こんな感じの知的なユーモアが同居していて、とても愉しめるし、音楽への「愛」が伝わってきてわくわくさせてくれる)

バッティストーニ、東京フィル「ローマ三部作」出演の際のリハーサル風景
バッティストーニ、東京フィル「ローマ三部作」出演の際のリハーサル風景

 マジシャン。

 その言葉を聞いた時、思った。バッティストーニも「マジシャン」だなあ、と。

 前回の原稿でも触れた、彼のデビューCDである東フィルとのレスピーギ『ローマ三部作』のリハーサルに立ち会った時、魔法のようだ、と舌を巻いてしまったのだ。彼のちょっとした指示で、音楽ががらりと変わってしまう、そんな光景の連続だったから。

 言葉は少ないながら的確で、身振りを通しての指示は明快でわかりやすい。何より「解釈がぶれないから、ついていきやすい」(東フィルのコンサートマスターの言葉)ということがよくわかった。噴水の水しぶきや真昼の陽光に心がはずむように、オーケストラが喜んでいきいきと反応しているのを目撃するのは愉しかった。本番が録音、発売されたのは何度も触れた通りだが、反響もとてもよく(お世辞ではありません)、うるさ方の批評家諸氏の絶賛を浴びている。

 第2弾のマーラー「巨人」は、この1月の東フィル定期で収録されたもの。他の指揮者が降板し、ピンチヒッターとして急遽来日が決まったにもかかわらず、3度の定期演奏会で曲目の変更もなく(初めて振る曲もあったそう)、躍動感あふれる音楽で会場を虜にした。

 レスピーギの時もそうだが、バッティストーニの創る音楽は、音が澄んで、洗練されていて美しく、躍動的でエネルギッシュだ。そして同時に、音楽の内部に下りて行っているという感触がある。音のひとつひとつが深く掘り下げられていて、ただ鳴っているだけではない、その先にあるものを想像させてくれるのだ。今回のマーラーなら、作曲当時マーラーがどんな状況にあったのか、どんな思いでこの曲を書いていたのか、想像したくなってしまうのである。

 この3月、イタリアのジェノヴァで、今回の「巨人」のレコーディングについて語ってくれたバッティストーニの言葉に、彼の演奏の秘密の一端をかいま見た気がした。

 「《巨人》は昔からいろいろな指揮者がとりあげてきて、バーンスタインやテンシュテットのような、定番になっている有名な解釈もたくさんあります。初めて《巨人》を振った時、まずはそういう有名な解釈をすべて忘れるようにしました。スコアと直接向き合い、とにかく音楽を読み込んで、シンプルに、音楽のハートを掴もうとしたんです。

 あのトスカニーニはマーラーの交響曲を指揮したことはありませんが、もし彼がマーラーを振ったとしたら、自分のようにアプローチしたのではないかと思います」

 音楽と向き合う。作曲家の書いた音符にとにかく近づいてみる。そういうアプローチをする指揮者は、トスカニーニに限らず存在するだろう。けれど、そこで何を感じ取るかは指揮者によって違う。その先は、やはりセンス、感性、才能の領域なのかもしれない。バッティストーニが「才能ある指揮者」と評価されるのは、聴き手の私たちに、音符の、音楽のその先、そのなかに何があるか感じとって導いてくれるからだろう。その「才能」は、今回のレコーディングでもいかんなく発揮されている。

 「素晴らしいオーケストラである東京フィルは、この演奏でベストを尽くしてくれました」

 バッティストーニの言葉通り、東京フィルもその能力を120パーセント発揮している、と私は思う。バッティストーニという「マジシャン」の手品に操られて。

文:加藤浩子

 

特集第1回:Who is Battistoni???  はこちらから。

さて、お待ちかねのマーラー『巨人』のCDは5/21(水)に発売!

バッティストーニからのコメントも届いております。バッティ特設サイトにてご覧ください!

 

レスピーギ「ローマ三部作」

マーラー「巨人」


Share us!

Twitter

Facebook

Google+

メールマガジン

女子クラ部主宰のイベントやご招待&プレゼント、作品情報・・・など、毎月1回メールマガジンを配信しています。メールマガジン登録及び配信は無料です。是非ご登録ください。

サンプル
メールマガジンsample.txt
テキスト文書 7.3 KB