バッティストーニに迫る!④若き天才は、イタリア・オペラを救えるか?

楽屋でお勉強中のバッティ@ジェノヴァ
楽屋でお勉強中のバッティ@ジェノヴァ

加藤浩子さんによる連載第4回は、イタリア・オペラ界のいまと、オペラ指揮者という存在について迫ります。

 

―――若き天才は、イタリア・オペラを救えるか?

オペラ指揮者という存在

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 「歌手の違いはわかるけれど、オペラの指揮者の違いって、よく分からない」

 オペラファンの方から、そういう声を耳にすることは少なくない。

 分かる気もする。声量や声の特徴など、「違い」が比較的わかりやすい歌手に比べ、指揮者はその場で聴き比べでもしない限り、すぐに「違い」がわかるわけではないからだ。

 一方で、個人的には、「オペラは指揮者次第」だと、とくにここ最近、強く思うようになっている。

来日中のローマ歌劇場日本公演にて
来日中のローマ歌劇場日本公演にて

 近年つくづくそのことを思い知らされたのが、イタリア・オペラ界(にとどまらず世界の楽壇の)の大物指揮者、リッカルド・ムーティ。ちょうど今、「終身名誉指揮者」(実質的な音楽監督)をつとめるローマ歌劇場と来日している。

 実はこのローマ歌劇場、ムーティが来る前は正直さほど魅力的な劇場ではなかった。何度か訪れたことはあったが、客席も舞台も活気がなく、公演の水準も今ひとつだったのだ。それが、ムーティが定期的に指揮を執るようになって一変した。彼の振るオペラ公演はいつもほぼ満席で、客席には期待感が渦巻き、公演のレベルもイタリアでトップクラスへと急上昇したのである。指揮者こそ、劇場を変える。そのことを思い知らされた体験だった。スター歌手は劇場を満席にするかもしれないが、指揮者はその劇場の、客演の場合は自分が指揮する公演の、音楽的な中身に対して責任を負うのだ。オペラ(少なくともその音楽)は、指揮者次第なのである。

カルロ・フェリーチェ劇場、公演スケジュール
カルロ・フェリーチェ劇場、公演スケジュール

 オーケストラ公演もそうだが、オペラの公演でも、指揮者はその作品を知り、解釈し、その解釈を歌手やオーケストラ、合唱団に伝えて実現してもらう役割を担う(演劇的な面での責任は、演出家が負う)。そのために指揮者は、まず独唱歌手とマンツーマンでリハーサルを重ね、時に互いに歩み寄りつつ、彼らが歌う人物像を創り出す。さらにオーケストラや合唱団とリハーサルを重ねて、作品像を創り上げてゆくのだ。指揮者は、大勢の音楽家集団を説得できる知識と、音楽でそれを実現できる説得力を兼ね備えていなければならない。だからオペラの準備は、オーケストラコンサートより時間がかかる。とかく手間ひまとお金のかかるもの、それがオペラの公演なのだ。

 そのオペラ公演が、オペラ発祥の国であり、オペラの国の代名詞でもあるイタリアで、今、危機にさらされている。国の経済危機のあおりで、歌劇場がこれまで主に頼ってきた国家予算が大幅に削減されているのだ。そのあおりを受け、公演回数が減ったり、リストラや給与カットが行われる歌劇場が続出。専属のオーケストラが解散に追い込まれた劇場もある。

 そのような措置に対抗して、劇場スタッフがストライキに突入することもままある。今月、この連載の主人公であるアンドレア・バッティストーニが首席客演指揮者を務めるジェノヴァのカルロ・フェリーチェ歌劇場では、彼が指揮する《カルメン》の公演が、ストライキのため初日から3回中止になった。オーケストラや歌手達は演奏したかったのだが、イタリアでは組合の力が強く(会社ごとではなく日本の「連合」のような横断的な組合)、組合の決定には逆らえないのだという。残念なことである。

 このようなことが起こる背景には、組合の存在の大きさなど、イタリア(フランスやスペインにも共通するが)特有の政治的、社会的な状況に加え、今のイタリアで、音楽やオペラが以前ほど重要と見なされていない現状もあるように思う。驚かれるだろうけれど、イタリアでは学校で音楽を教えなくなって何十年にもなるのだ。

 「我々イタリア人は、イタリアの劇場で、イタリアのために闘っているのです」

 そう言ったのは、バッティストーニ、そしてこの4月に来日して二期会で《蝶々夫人》を振ったダニエレ・ルスティオーニとならんで、イタリア若手指揮者の「三羽がらす」と称されるミケーレ・マリオッティ(1979年生まれ)だった。

 ではバッティストーニは、このような現状をどう考えているのだろう。

 「偉大な音楽の故郷でありオペラの国であるイタリアで、音楽があまり大切にされていないことはもちろんとても悲しいことです。とくに、音楽教育が個人的なものになってしまっていることが残念です。けれど私は、音楽はそれでも色んな問題を解決できると思っています。もちろん、今のイタリアの経済的危機を、私たち芸術家がどうこうできるわけではありませんが、私にできることとしては、音楽やオペラの魅力を若い世代に伝えて行きたい。だから本を書いたり、レクチャーをしたりして、自分に近い世代の人間に、音楽は人生を捧げるだけの魅力があるものだと伝えています。今の全体の傾向にすぐ効く特効薬があるわけではありませんが、変えるためのチャレンジは続けて行かなければならないと思っています」。

 自分にできる範囲で音楽やオペラの存在感を高めていくこと、それが、イタリアの現状の改善につながれば。バッティストーニはそう考えているようだ。音楽の、オペラの、そしてバッティストーニのファンとして、私たちも彼の努力を応援していきたい。いつか彼が、彼が尊敬する指揮者のひとりでもあるムーティのような存在になる日を想像しながら。

 

 (ちなみにジェノヴァの《カルメン》は、現地時間の31日8時から、にストリーミング中継が予定されている。夜更かしまたは早起きをして、ぜひ!)

文:加藤浩子

ストリーミング・スタジオのSimoneとfabrizio
ストリーミング・スタジオのSimoneとfabrizio

そうなのです、皆さん。今週末の土曜深夜(というにはあまりに朝だけど)もしくは日曜早朝に、バッティの指揮する《カルメン》が、ライヴ・ストリーミングされます。

加藤さんの記事にもあるように、はじめの公演3回はストのために中止され、予定されていたストリーミングも中止に。(正確にはストリーミングは中止ではなく、観客のいない劇場で、代理の指揮者、普段着のままの歌手、舞台転換なしという状況で、はじめの数十分が中継されたのでした。)

 

 

なので待ちに待った今回のライスト。期待もぐーっと膨らんだところで、6/1(日)の午前3時半よりお見逃しなく!ストリーミングは、こちらのサイトでご覧いただけます。

ぜひ、早起きして楽しんでください!!

 

↓は、おまけにカルロ・フェリーチェ劇場より、バッティストーニのインタビュー映像。

雰囲気のみお楽しみください(汗)。。。

バッティストーニ連載、アーカイヴもご覧ください。

1.Who is Battistoni ???

2.東京フィルと共演のマーラー『巨人』

3.ジェノヴァから世界へ羽ばたく若き天才

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