人の魂を追い求める音楽~「インバル マーラー10番を語る」を聴講して

写真:堀田力丸 / 写真提供:東京都交響楽団
写真:堀田力丸 / 写真提供:東京都交響楽団

7月20日と21日の2日にわたりサントリーホールで催される、インバル指揮・東京都交響楽団によるマーラーの交響曲第10番のコンサート。それに先立ち昨日は芸術劇場のシンフォニースペースにて、インバル大先生が「マーラー10番を語る」というレクチャーイベントが行われました。

女子クラ部でも3月に、”マエストロ・インバルが東大オケの面々を前に講義”という大変レアな機会をレポートさせていただいたのですが(⇒東大レクチャーのレポートはこちら)、今回のレクチャーの観衆はインバルを愛し、マーラーを愛し、インバル&都響によるこのコンサートを心待ちにしていた熱狂的なインバル&マーラー・ファンの方々ばかり。女子クラ部スタッフは、皆さんの真剣なまなざしに少々おびえながら(いえ、襟を正して)マエストロの語るマーラーの世界に、耳を澄ませておりました。

 

マエストロ・インバルのレクチャーの内容は、都響さんがTwitterで実況中継をしておられたので、こちらのリンク(https://twitter.com/Inbal_mahler10)からTweetをさかのぼっていただければ、あたかもレクチャーを聴講したかのように!その内容をお知りになれます。(素晴らしく上手くまとまったTweetです。)

 

ちなみに、こんな感じ!

写真:堀田力丸 / 写真提供:東京都交響楽団
写真:堀田力丸 / 写真提供:東京都交響楽団

マエストロはレクチャーの中でも語っていましたが、マーラーとは、文学の世界にシェイクスピアがいるように、科学の世界ではアインシュタインがそうであったように、音楽の世界における“宇宙を知る人”。人間の魂を理解し、宇宙の真理を見通し、人生の意味について深く分け入ってゆこうとする人。

重要な作曲家を挙げてゆけばほかにも30人の名前は出てくるでしょうが、マエストロ・インバルにとっては、マーラーこそが第1にその名を挙げるべき作曲家なのです。

 

マーラーはボヘミアに生まれ(当時オーストリア帝国領で現在のチェコ)、ウィーンで活躍したユダヤ人の作曲家です。そのためオーストリアではボヘミア人だといわれ、ドイツではオーストリア人だといわれ、そのほかの地ではユダヤ人だといわれる常の異邦人であったわけです。

 

そんな彼の複雑さは、曲のなかにも反映されていると、マエストロは言います。

なぜこの世には戦争があるのか、なぜ人は死ぬのか、そうした人間のネガティブな側面が、いつもマーラーの曲の中に現れます。

けれどマーラーは曲の終わりには、かならず人間の勝利を語るのです。1番でも2番の交響曲でも(これらの曲には実際、葬送の音楽さえ現れるのに)、最後には勝利と復活が描かれる。それが4番では人生のあとの世界を描き、《大地の歌》そして第9番の最後ではついに人生への別れを告げるに至ります。それはネガティブな別れではなく、「この人生はなんと素晴らしかったのだろう!」という死を受け入れた人の言葉なのです。

 

それでは、(哲学的には)すでに死んでいるマーラーは、第10番でいったい何を語ろうというのでしょう・・・というのが今回のレクチャーのテーマでした。

これはマーラーの、きわめて個人的で悲劇的な音楽なのだ前置きしつつ、マエストロは、マーラーとアルマの関係についても語っておられました。

インバル先生のアルマ評についてはTweet(↓)をご覧いただいて、マーラーの悲惨な(?)恋愛の顛末については、女子クラ部の「恋するクラシックスキャンダル」シリーズもご参照いただきましょう。

写真:堀田力丸 / 写真提供:東京都交響楽団
写真:堀田力丸 / 写真提供:東京都交響楽団

マエストロのお話を伺っていて興味深かったのは、10番の中には美しい愛の理想と悪魔がせめぎあっている、その悪魔というのは”現実”、愛の悲劇なのだと表現されていたことです。

 

「いったい何が起こっているのだろう」と自問するようにはじまる第1楽章アダージョ。私たちの愛はあんなに美しかったのに、と思うそばから、突きつけられた現実に愛がしらけてゆく・・・現実は苦く、どんどん過酷になってゆき、悪魔のような不協和音に達する。11のすべての音が鳴るあの強烈な不協和音!けれども悲劇にとどまることを良しとしないマーラーは、そのなかにも愛の慰めを見出そうとするのです。

 

愛においてだけでなく、人生において常に戦う人であったマーラー、そして死後の世界を常に気にかけていたマーラーを理解するには、きっとその人の中にもフツフツと沸き立つようなもの、理想と現実のはざまでいつも身もだえしつつ、それでも光のあるほうへ向かって歩んでゆくような強靭な精神を、もっていなければならないでしょう。

 

マエストロへの質問コーナーで、マーラーを理解するには人種や国籍という要素はどれほど重要かとたずねておられた方がいましたが、これこそがマエストロの答え。国籍ではなく気質、マーラーの精神を共有する人こそマーラーを理解できるのだ、というのです。

そう、マーラーをこれほどに愛するマエストロ・インバルもまた、戦いの精神をうちに秘め、人の希望を信じておられる方なのだと、深く感じた瞬間でした。

そしてマエストロはその精神をとても軽やかに身にまとっていらっしゃる、稀有な方だと感じずにはいられません!あれは年月を経て着こなした朗らかさなのでしょうね!

 

最後にマエストロからのメッセージを!

マーラーにとっての死後の世界とはなにか。それはマーラーの音楽です。死後の世界があるのかと常に考えていたマーラーは、また常に音楽とともにあったのです。そしてマーラーの死後には、彼の音楽が残り、マーラーはいつまでも私たちと共にいます。10番の交響曲は人間の希望と美しさを表現した曲です。

Thank you, Mahler, for giving us 10th Symphony!

 

そうまで言われては、聴きに行かずにはおれません、でしょ?

 

マエストロ・インバルが指揮するマーラーの交響曲 第10番のコンサートはこの連休、サントリーホールにて行われます。

20日&21日ともまだ残席があるそうですので、皆様ぜひ会場に足を運んでくださいね。

 

(チラシをクリックすると、都響さんのサイトに飛びますよ!)

 

お昼の公演なので、コンサートのあとに虎ノ門ヒルズでちょっと休憩っていうのもありですよね。(先日土曜日に行ってみたら、平日よりずっと人ごみは穏やかでした!)

 

by じょ子

「マーラー:交響曲全集」インバル指揮/フランクフルト放送交響楽団 [COCQ-84805-19]

マーラーは自らの手で全5楽章の略式総譜を完成し、第1、第2楽章の全部と第3楽章の一部まで総譜草稿に至ったところで他界。クックは仕上がっていない草稿を演奏可能なフル・スコアに書き直し、マーラー最後の交響曲の全貌を世に示したのです。先にマーラー協会全集版のアダージョを録音しているインバルは、このクック版にもまた録音の価値を見出し、この名盤として結実させました。

 

Share us!

Twitter

Facebook

Google+

メールマガジン

女子クラ部主宰のイベントやご招待&プレゼント、作品情報・・・など、毎月1回メールマガジンを配信しています。メールマガジン登録及び配信は無料です。是非ご登録ください。

サンプル
メールマガジンsample.txt
テキスト文書 7.3 KB