夏のバッティストーニ・レポート vol.1「完璧な一夜」

イタリアには古代ローマの闘技場がいまもその威容を誇り、しかも現役の劇場として活躍していますが、そのひとつヴェローナにあるアレーナでは、毎年6月から8月にかけて野外オペラ祭が開催され、イタリアの夏の風物詩となっています。

そこに今年も登場した我らがバッティストーニ!そう、ヴェローナはバッティの地元です。

 

今年のバッティの出演作は《仮面舞踏会》。

残念ながら日本からじっと彼の活躍の様子を妄想する私たちに代わって、加藤浩子さんに今年のアレーナ・ディ・ヴェローナ・フェスティヴァルの模様をレポートしていただくことになりました!

 

夏のバッティ特集・第1弾は「完璧な一夜~ヴェローナ音楽祭《仮面舞踏会》レポート」

ラストシーンの舞踏会のシーン
ラストシーンの舞踏会のシーン

 完璧な一夜だった。

 ローマ帝国時代の円形競技場に出現した、ホワイトハウスのように建ち並ぶ白い柱が印象的な舞台装置。場面に応じて時に割れるその柱の間を自在に縫い、美声を競い合う歌手たち。暮れていく夜のなかで浮かび上がった、銀いろの満月。ペチコートでふくらませた衣装を揺らしながら、仮面舞踏会のシーンを彩るダンサーたち。円形競技場の階段から夜空に向かって放たれた、光の噴水のような花火。そして、ダイナミックな身振りで音楽をリードしつづけた、この国生まれの若き指揮者。

 

 すべてが、まさに一夜の夢のようだった。緊張感を保ち、躍動感に彩られながらもどこまでも美しい音楽に吸い込まれ、歌に酔い、舞台に酔う、あっという間の3時間。

 アンドレア・バッティストーニが指揮した、ヴェローナ音楽祭でのヴェルディのオペラ「仮面舞踏会」を鑑賞しての実感である。

 

 北イタリアの美しい町ヴェローナで、ローマ帝国時代の円形競技場を舞台に上演される野外オペラが売りのヴェローナ音楽祭。「仮面舞踏会」は、今年の音楽祭のオープニングを飾った演目で、今年6作上演されるオペラのなかで唯一の新制作である。「仮面舞踏会」は欧米ではそれなりに上演の頻度が高い作品だが、日本ではなかなか恵まれず、その意味でも楽しみな公演だった。

合唱団が目の前で!
合唱団が目の前で!

 演出はイタリアの大御所、ピエール・ルイジ・ピッツィ。舞台装置は初めに書いた通り、半円形に並べられた白い柱が中心とシンプルだが、それを場面に応じて自在に動かし、カラフルで豪華、かつ洗練された衣装で彩りを添える。円柱の上階はテラスのようになっていて、二重舞台よろしくそこもステージとして活用。前奏曲の間も、上階部分に衣装をまとったダンサーたちが現れ、音楽にあわせてゆったりした踊りを披露して壮観だった。

 

 歌手はイタリア出身の若手や歌い盛りが中心。主役のリッカルドを歌ったフランチェスコ・メーリは、イタリアの若手テノールでは今ナンバーワンだとひそかに思っている歌手だが、素直な明るい美声、美しいディクション、率直な情熱が全開で、とても魅せられた。舞台に向かって左側のほぼ最前列に座っていたのだが、会場が巨大なせいでオーケストラピットの幅が舞台中央部分に限られるため、ピットの左右は客席にせり出した舞台空間として使われており、第4幕の有名なアリア「永遠に君を失えば」をメーリが目の前で歌ってくれるという、小劇場でもなかなか味わえない体験ができたのも感激だった。

 

 ヒロインのアメーリアを歌ったフイ・へーは、スカラ座などでも活躍する歌い盛りの中国人ソプラノ。しっとりした濃密な声とあぶなげのない技術で、女性らしいアメーリアを造型した。彼女の夫で、リッカルドの部下にして友人であるレナートを歌ったルカ・サルシも近年とみに活躍しているイタリアのバリトンだが、やや地味ながら安定した歌と演技で実直なレナート像を創り上げており、好感が持てた。

 

 オスカル役のセレーナ・ガンベローニ(フランチェスコ・メーリの夫人でもあるソプラノ)は、この役を得意にしているコロラトゥーラ系のソプラノだが、期待を裏切らない自在な美声と軽やかな演技。ウルリカ役のエリザベッタ・フイオリッロも深みのあるドスのきいた声で、魔女がかった占い師には適役だった。合唱は、音楽祭用の臨時編成ということもあってやや物足りなさが残ったが、ソリスト陣が充実していたのでさほど気にはならなかった。

カーテンコールに応えるバッティ
カーテンコールに応えるバッティ

 とはいえ、最高だったのはやはり指揮。地元ヴェローナ出身、この7月に27歳になったばかりのアンドレア・バッティストーニ、とにかく集中力がすさまじい。

作品を確実に自分のものにしている(ほとんど暗譜)。ヴェルディのオペラは今回の「仮面舞踏会」を含め、初期から最後の作品にいたるまで10作を指揮しているが、本作の「フランス的」(本人の言)な洗練された部分を巧みにとらえているし、メロディは美しいし、音楽は流れるし、躍動感に満ちている。どの音にも魅力が詰まっている。そしてほんとうに、どこをとっても(繰り返しだけれど)美しい。

ピンと張りつめているので引き込まれるけれど、だからといって疲れることはまったくなく、3時間があっという間に過ぎた。

すごく高揚した気分なのに、我を忘れるような熱狂に引きずり込む強引さはないから、とても気分がいいし、後味がいいのだ。これだけ緊張感がありながら心地よい音楽が創れるというのは、まさに何かの「申し子」としか言いようがないのではないだろうか。

 終演後、楽屋で会ったバッティストーニは、さわやかな笑顔で終始上機嫌。

「仮面舞踏会」はヴェルディの「転換点」であり、「ドン・ジョヴァンニ」だと的確な分析(これはそのような資料もあるので、勉強家の彼のこと、きちんと目を通した上で自分のものにしているのだろう)。サインに写真撮影と、ファンサービスもにこやかにこなしていた。

 

 「完璧な1日でしたね」。楽屋を後にし、夜更けのアレーナに面した広場で冷たい白ワインを飲みながら、一緒に鑑賞したオペラ仲間のひとりが呟いた。その日は午前中、ミラノにあるヴェルディが建てた音楽家のための老人ホーム、「憩いの家」で、80歳超のソプラノ、リナ・ヴァスタさんの歌声をきくことからスタートしたのだが、80歳のソプラノに始まり、27歳の指揮者で終わった長い1日、たしかに「完璧」だったと、皆でその幸せを噛み締めたのだった。

 

 そしてこの翌日、バッティストーニのインタビューに成功。彼の才能の秘密、そして素顔がちょっと見えたような気がした。その模様は、次回。

(文・加藤浩子

それでは、夏のバッティ・レポート次回をお楽しみに!

バッティ特集バックナンバーはこちらでご覧になれます。

 

1.Who is Battistoni???

2.東京フィルと共演のマーラー『巨人』

3.ジェノヴァから世界へ羽ばたく若き天才

4.若き天才は、イタリア・オペラを救えるか?

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